太陽と海の教室
Episode 1
『地球一熱い教師が海からやってキター!!』
有名国立大学、私立大学に毎年多数の生徒を合格させる進学高校、
湘南学館。
この高校に、櫻井朔太郎(織田裕二)が赴任してくる。
しかし、櫻井は誰もが想像するような進学校の教師とは、
およそかけ離れた型破りな男で…。
夏を目の前にした3年1組の仲間、根岸洋貴(岡田将生)、白崎凛久(北乃きい)、
田幡八朗(濱田岳)、屋嶋灯里(吉高由里子)、楠木大和(冨浦智嗣)、
日垣茂市(鍵本輝)、澤水羽菜(谷村美月)たちは、
夜の浜辺に集い、自分たちだけの卒業式をしようと花火を楽しむ。
花火に火をつけ、それぞれ携帯で自分たちの写真を撮る7人。
「高校卒業、おめでとうー!!」
7人の後ろに大きな打ち上げ花火が上がる。
携帯カメラで撮った写真には、自分と、隣に並んだ人しか入っていない。
「全然撮れてないじゃん!!」と凛久。
「撮りなおし!みんな整列整列!」と大和。
「待って!来て!」
羽菜に言われ、携帯を並べてみる。
すると、7人全員の記念写真が出来上がる。
「まあ・・いっか、これで。」と洋貴。
「うん!
これが私達の卒業写真。」と凛久。
「この7人で遊ぶのも今日が最後か。」と灯里。
「いやでも、明日水泳部の対抗戦があるんだけど。」と洋貴。
「そうだよ!みんなで応援に。」と茂市。
「約束したでしょ。
夏になる前に、私達だけで卒業式しようってさ。」と灯里。
「今日で高校生終わりだよ。」と大和。
「明日からは受験生。」と凛久。
「わかったよ。
ほんと冷てー友達だよな。」と洋貴。
「ほんとだよな。」と茂市。
7人は空に上がる花火を見つめ・・。
帰り道
「じゃあ俺、コイツ(サーフボード)捨ててくるわ。」と茂市。
「バイバイ!」
「じゃあ私もそろそろ帰る。」と灯里。
「彼氏?」と凛久。
「エヘヘ。ちょっと、送ってって。」灯里が八朗に言う。
「はい!」と八朗。
「バイバーイ!」
「じゃあ、」と羽菜。
「僕達も。」と大和。
「何々?今日はラブホか?」と洋貴。
「慶應の模試申し込んだ?」洋貴を無視して羽菜が大和に聞く。
「もち!あと、一ツ橋と、東大と、」と大和。
「シカトか!?ほんと色気ねーな。
たまには勉強以外の会話しろっつーの!バカチン!!」
凛久と洋貴が並んで歩く。
「うちのクラスさ、産休のヨシミネ先生に代わって、」と凛久。
「ミス東大が来るんだろ!もう、どうすんだよ!」
「なんか浮ついてるし。そんなんじゃ同じ大学行けないじゃん。」
「わかってるって。
明日で部活は引退する。」
「ねーぎーしー君!」他校の生徒が洋貴を呼び止める。
「・・・」
「西高の子?」と凛久。
「ああ・・末吉。」
「海開きの祭り行ったらやきそば超並んでんの。ウザくね?」
中心人物の末吉春臣(中村倫也)が洋貴に言う。
「・・そうなんだ。」
「根岸焼きそば買ってきて。」
「・・・」
「洋貴・・。」凛久が心配する。
「わかった。」
「そういやお前、アンカーなんだって?」
「・・・」
「うちの学校の水泳部との対抗戦だよ。
今年はお前の活躍次第で湘南学館が勝つかもしれない。」
「それがどうかした?」
「負けてくんないかな。わざと。」
「・・・」
「負けちゃえよ。その方がお前には似合ってるよ。」
「・・・わかった。」
手を差し伸べる末吉。それに握手で答えようとする洋貴。
「誰が握手しろって言った?
お手だよお手!」
「・・・」
「何その顔。いいのかなー。
またお前んちの親父土下座することになっちゃうかもよ。
こいつんちの親父借金返せなくてうちの親に土下座したんだよ。
キツくね?
親の土下座なんか見たくなくね?
ほら、ひざまずいて、お手!」
「・・・」
屈辱に耐えながら、ひざまずき、お手をする洋貴。
笑いながら写真を撮る末吉の友達。
「負け犬!
ほらやきそば!ダッシュで!」
悔しそうにやきそばを買いに行く洋貴。
そんな洋貴を凛久は見つめ・・。
翌朝
登校途中の凛久は、海岸を走る水泳部に声をかける。
「おはよう!」
一番後ろを走る洋貴と並ぶ凛久。
「おはよう!良かった。ちゃんと練習してるんだ。
昨日あんなことあったから。」
慌てて凛久を止め、みんなに先に行くよう言う洋貴。
「お前余計なこと言うなよ。」
「え・・洋貴まさか最後の試合だっていうのにわざと負ける気?」
「お前には関係ないよ。」
「ねえ、洋貴のお父さんの工場が、末吉君のお父さんの会社の下請けだったの?」
「誰にもしゃべんな!
しゃべったら一生許さない。」
「・・・うん。」
「誰かー!!孫が!孫たちが海に!!」
孫の名前を叫ぶ老人。子供が波にさらわれたらしい。
洋貴が靴を脱いで助けに行こうとする。
「ちょっと大丈夫!?」と凛久。
「俺が溺れたら次はお前だから!」
「は?ちょ・・
!!ちょっと待って!」
「は?」
「あれ!・・・あれ!!」
子ども二人を担いだ男が波間から顔を出す。
荒波にもまれながら、その男は子供2人を無事救出。
この男こそ、櫻井朔太郎(織田裕二)だった。
朔太郎の指示で、洋貴は救急車を呼び、凛久は子どもの一人に人工呼吸を施す。
幸い二人とも命を取り留めることが出来た。
ライフセーバーが子どもたちを運んでいく。
「お医者さん?」凛久が洋貴に聞く。
「・・・わかんない。」
「あ・・」
スーツ姿のまま海に飛び込んだその男。
胸から海草まみれの携帯を取り出し、
「またやった・・。」と呟く。
水浸しのカバンと、落ちていた手帳を拾う朔太郎。
手帳は、凛久の学生証だった。
「すみません。」凛久が受け取る。
「何時だ?」
「8時です。」
「8時!?
どこにある!?」
「どこ?携帯屋さん?」
「違う。連れてってくれ!」
朔太郎は凛久の手を取り走り出す。
走る二人を追いかける洋貴。
「おい待て!何してるんだよ。」洋貴が二人に追いつく。
「道に迷った。」
「そりゃそうだよ。
どっから来たんだよ。」
「どっから来たかは大事じゃない。
どこへ行くかが大事なんだ。」
「じゃあ行けばいいじゃないですか。」と凛久。
「あ、聞いてみる。ちょっと貸してくれ。」
洋貴の携帯を借りる朔太郎。
「あれ、なんかメール来た・・。」
それは、昨晩、末吉の友人が撮った、お手の写真・・。
『負け犬』と言葉が添えられている。
「何でお手してんの?」
携帯を奪い返す洋貴。
「・・・」
「良かったら、俺に相談してみろ。」
「何なんだよあんた・・。」
「いや何なんだよって?」
「誰だって聞いてんの!」
「誰だ?
難しい質問だな。」
「どこが難しいんだよ。」
「いや、でも、いい質問だよ。
自分が誰なのかを証明するのは難しい。
でもお前たちがそう言うんなら考えてみよう。」
「何ワケわかんないこと言ってんだよ。
名前を言えばいいんだよ、名前を!」
「鈴木一郎。」
「鈴木一郎・・」
「そんな嘘の名前言われたとしてもだ。」
「嘘なのかよ!」
「名前聞いて俺の何がわかる?
ああ鈴木さんかってそれだけだろ。」
「じゃあ職業言えばいいじゃない。」と凛久。
「職業ね!一理ある。
でも職業だけでその人は信用できるか?
悪い警官もいるし心優しい海賊や泥棒だっているだろ?」
「ジャックスパロー!」と凛久。
「ルパン三世!」と洋貴。
「そう!
例えお前たちが大統領夫妻だとしてもだ。」
「普通に高校生です!」
「良い高校生か悪い高校生か、
良さそうに見えて、本当は悪い高校生なのか。
悪そうに見えて本当は良い高校生なのか。」
「ワケわかんねーよ。」
「だろ?
だから名前や職業じゃその人が誰なのかなんて、
ワケわかんねーなんだよ。
お前たちは誰だ。」
「・・・ダメだ。相手にすんな。行こう。」
その場を立ち去る洋貴と凛久。
朔太郎は潮の香りに笑顔を浮かべる。
湘南学館高等学校
体育館では、神谷龍之介理事長(小日向文世)が訓話中。
「28万9452。
3年生諸君。この数字が何かわかりますか?
君たちに残された、センター試験までの時間です。
今その数字を聞いて、まだまだ時間があると思った者・・・
君たちは志望校には受からない。」
「柴草先生、校長がいませんね。」と赤木(池田 鉄洋)。
「呼ばれてないでしょう。
校長が失脚した今、我が校は理事長のワンマン体制と
なりましたからね。」と柴草修平(八嶋智人)。
「学歴社会は終わった。
偏差値教育は間違って入る。
それは、現実を見ていない者たちの奇麗事だ。
真に君たちを思うものはこう言うだろう。
君たちの未来は、偏差値が決める。学歴が決めると。
残された時間を想像出来ないものは、単位をお金に変えてみなさい。
1時間ごとに60円ずつ捨てていってるものだと。
28万円なんてあっという間になくなります。
残すところ、28万9450分。
無駄に使わぬように。
終わります。」
「相変わらず理事長の話は説得力がありますね。」と柴草。
「ミス東大がまだ来てません。」と赤木。
「何をしてるの?あのお嬢さんは。」と真山春佳(吉瀬美智子)。
「ようやく担任任せてもらえるようになったって言うのに・・。」と柴草。
新担任となるはずの榎戸若葉(北川景子)は、校門を駆け抜けたところで、川辺英二(山本裕典)と激突。
「イッテー。ちょっと何するのよ!」
「・・・」
「あ!あなた3年1組の川辺君ね!
よろしく!
私今日から1組の担任に。」
黙って立ち去ろうとする英二。
「ちょっとどこ行くの!」
「学校辞めることにしたんだよ。」
「え?」
「どうせ誰も止めねーし。」
「うん・・まあ、高校は義務教育じゃないし、
誰も止めやしないでしょう。」
持っていた上履きをゴミ箱に放り投げると、英二は若葉を見つめ・・
そしてその場を去る。
「あーあ、めんどくさい!
あ、遅刻遅刻!」
体育館にこっそり入る洋貴と凛久。
「二人で朝帰りして遅刻!」灯里がからかう。
「そんなわけないだろ。」と洋貴。
「変なのに掴まっちゃってさ。」と凛久。
「凛久、スカートに何かついてるよ。」と大和。
「ワカメ!」と八朗。
そこへ、若葉がやって来た。
ちょうどその時、3年1組の担任が発表されようとしていた。
しかし、長谷部杏花校長(戸田恵子)が担任に指名したのは櫻井朔太郎だった。
「それでは先生、お願いします。」
「はーい!」
体育館のドアを開け、元気に返事をする朔太郎。
スーツがびしょぬれの朔太郎に驚く一同。
「僕です!こっちです!」
体育館の中央まで進む朔太郎。
彼を取り囲む生徒たち。
「・・・ここでいっか。
ここでーす!
はじめまして。
今日から、みなさんと一緒に、お勉強します。
櫻井朔太郎です。よろしく!」
いつの間にか体育館にやって来ていた長谷部校長が微笑を浮かべる。
「うそでしょ・・」と凛久。
「あれ最悪だぞ。」と洋貴。
朔太郎が凛久と洋貴を見つけ、笑顔で手を振る。
廊下を歩く柴草、朔太郎、若葉。
ボールペンをカチカチ鳴らす朔太郎に柴草が言う。
「カチカチカチカチ気になるなー。」と柴草。
「え?あ、失礼。」
「溺れた子どもでも助けたんですか?」
「ええ、そうなんです。」
「何言ってるんですか?今は笑うところです。」と若葉。
「笑うところじゃないよ!」
「すみません・・。」
「あ、ちょっと。その格好で教室行く気?」
「あ、授業やってるうち乾きますから。」
「初日なんだからこういう気合入った格好しなきゃ!」
若葉が柴草の白いスーツを指差す。
「別に気合入ってないよ!普段着だよ。」
「すみません・・。」
朔太郎は二人を置いて教室へ。
「ちょっと先生!・・・何なんだよ。」
「私が副担任ってどういうことなんですか?
柴草先生、私が担任だって言ったじゃないですか。」
「知らないよ。校長の人事だ。校長に聞いてよ。」
3年1組の教室
茂市の水泳大会への期待に顔を曇らせる洋貴。
そんな洋貴を心配する凛久。
そこへ、朔太郎が、ボールペンをカチカチ鳴らしてやって来る。
「・・・シャンプーの匂いだな。」
「起立!」
「ああいいよいいよ。立たなくていい。
お前ら髪サラッサラだな。
いつも朝風呂入ってるのか?」
「・・はい。」
「何の話だよ。」と洋貴。
「お前今日朝ご飯何食べた?」
「トーストと・・コーヒーです・・。」
「朝パンだ!朝パンだよな!」
「だから何・・」と灯里。
眠っている生徒の前に立つ朔太郎。
「最近の消しゴムって300円もするんだ・・。」
「そっち!?」と八朗。
「あ!!」
朔太郎が洋貴と凛久を見つける。
「・・・」
「いたいたいたいたいた!
さっき偶然海岸で会ったんだよな!な!!」
「何あれ。」と大和。
「ほっとこ。」と羽菜。
クラスの大半は自習をしている。
「あの!」
「お、なんだ?質問か?」
「今何をしているんでしょう。」
「何をしてる。難しい質問だな。」
「はじまったよ・・。」と洋貴。
「授業をして下さい。」
「授業って何の授業?」と朔太郎。
「何のって・・。」
「先生の授業です!」
「授業は俺のものじゃない。お前たちのものだ。
俺はまだお前たちのことを何も知らない。
お前たちも、俺のことを、まだ何も知らない。
どんなことでもいい。お前たちのことが知りたい。」
「僕達のことをお知りになりたいなら、職員室に記録があると思います。」
勉強をしながら大和が言う。
「読んだよ。読んだけど、あそこに書いてあるのはお前たちの名前と
成績だけだ。」
「それがわかれば充分かと思います。」と大和。
「そうかな。
俺が知りたいのはさ、例えば、」
そこへ若葉がやって来た。
「えー、みなさん、副担任の榎戸若葉です。
授業の見学をさせていただきます。
何ページ?」
「まだ始まってません。」と灯里。
「例えばそうだな、お前たちが将来何になりたいのかとか、
5年語10年後、お前たちが、未来に思い描いている自分の姿を
教えてくれないか?」
朔太郎の言葉に呆れる生徒たち。
「どうだ。」朔太郎が灯里に聞く。
「別にありません。」
「別にありませんなんてことないだろ?
お前は?」
朔太郎に聞かれ答えようとする八朗だが、灯里に答えるなと合図され
「ありません。」と答える。
「将来何になりたい?」朔太郎が凛久に聞く。
「・・・別にありません。」
「そんなんこと聞いても、誰も答えられないと思いますよ。」と若葉。
「どうして?そんなはずないだろ。
何になりたいのかわからないことには、」
その時、生徒の一人・貴林優奈(黒瀬真奈美)がわざと筆箱を落とす。
「将来何になりたいのかわかって初めて、」
生徒たちが次々と筆箱を落とす。
「・・・」
「先生。生徒たちから完全に引かれてますよ。」と若葉。
「・・・わかった。
授業始めよう。
えー、教科書とノートはしまって。」
「・・・」
「今日の授業は、そうだな。
今日の授業は、にらめっこだ。」
「にら??」と凛久。
「・・・」
頬をプッと膨らませ生徒たちを見渡す朔太郎。
大和が挙手する。
「手を挙げなくていいぞ。どうした?」
「そのにらめっこは試験に出るんですか?」
「試験?」
「ええ。受験に関係あるんですか?」
「受験。」
「いいぞ大和!」と洋貴。
「そうだな。そしたら、これ試験にしよう。
俺に勝ったら100点、負けたら0点な。」
今度は羽菜が手を挙げる。
「手を挙げなくていいって。」
「失礼ですが、その試験で100点を取るとどこの大学に入れるのか、
教えていただけますか?」
「大学?」
「受験に関係ないのなら、無意味だと思います。」
「無意味ってことは・・」
「私の第一志望は、慶應の医学部です。
試験科目は数学1A、2B、3C、英語、物理化学、生物から2科目。
小論文と面接ですが。
私の知る限り、にらめっこに関する問題が出題されたことはありません。」
「羽菜カッコイイ!」と灯里。
「あー、わかった!お前は医者になりたいんだ!
病気の人を助けたい!」
「いいえ。自分の偏差値に応じた大学を受けるということです。
二次志望は医学部ではありませんし。」
「医者の仕事ってのはさ、人の命を助けるってことだよ。
勉強できるできないっていうのは別のことだよ。」
「そんなことは知ってます。」
「だったら、」
「僕達は忙しいんです。
1分一秒惜しんで勉強している時に、
そんなくだらない遊びをしている暇はありません。」と大和。
「・・・
お前たち幼稚園児か。
本当にどうしたいとか、将来どうなりたいとかないのか?」
「・・・」
「もしそうだったら、お前たちは幼稚園児だよ。
幼稚園児には幼稚園児の為の勉強がある。
それが、にらめっこだ。
今から俺とお前ら全員、先に眼をそらしたほうが負けだ。
いいな。
はい、3、2、1、スタート!」
「別に私0点でいいですー。」灯里が教室を出ていく。
「あ、じゃあ俺も0点でいいです。」と八朗が。
「図書室?」と羽菜。
「ああ。自習しよう。」と大和が。
次々に教室を出て行く生徒たち。
凛久も出ようとするが、洋貴がにらめっこに答えている。
図書館へ向かう大和たち。
そこへ、若葉に様子を聞いた神谷理事長たちがやって来た。
「ここは、檻の壊れた動物園ですか?」
「・・・」
「そう。私は植物園の方が好きです。」
「何をなさっているのでしょう。」
神谷が朔太郎に聞く。
「にらめっこです。」
生徒から視線を外さずに答える朔太郎。
「授業をほっぽりだして遊んでるわけですか。」と赤木。
「半分正解、半分不正解です。
遊んじゃいますが授業を放り出してはいません。」
「先生は当校のことをご存知ですか?」と神谷。
「湘南学館高校です。」
「名門進学校です。
毎年東大に40名、京大に10名、」
「あの先生、」
「先生じゃありません。理事長です。」と若葉。
「早稲田政治経済学部に30名、慶應医学部に」
「あの、気が散るんで、話しかけないで下さい。」
「・・・」
「何言ってるんですか!今せっかく理事長が、
御託を並べている時だったのに!」と若葉。
「ゴタク?」と神谷。
「あ・・使い方間違えました。私いつも間違ってしまって。
前にも面接で御社の利益をアブク銭って言ってしまって。」
「ちょっと黙って。
あんたねー!!」と赤木。
「赤木先生。大きな声をださないで下さい。」と神谷。
「すみません。」
「この方を招かれたのは校長先生でしたね。
私から話しておきましょう。
・・・にらめっこ、楽しそうですね。」と神谷。
「一緒にやりますか?」
「・・所用がありますから。失礼。」
神谷は呆れて帰っていく。
「間違ってないぞ。あれはゴタクだよ。」朔太郎が若葉に言う。
「私側につくようなこと言わないで下さい!」
若葉も怒って立ち去った。
授業終了のベルににらめっこをやめて立ち上がる生徒たち。
「今目をそらした者は負けだ。」
「え!?終わったんじゃないんですか!?」と凛久。
「いや。最後の一人まで続けるんだ。」
「えーっ・・・。」
校内の植物園で草花の手入れをする長谷部校長。
「ママ!」と若葉。
「しーっ!学校ではママって言うな!」
「どうして私があんな変人教師の副担任なの?」
「パパ、元気?」
「生徒を幼稚園児扱いしてるのよ。
高校生相手ににらめっこなんかして。」
「へー。幼稚園で習うことって、大切なことよ。」
「学校は、勉強する場よ。」
「あなたは、何のために東大出たの?」
「何のためって・・将来の為よ。」
「その将来が何なのかを、生徒たちがわかっていない。
だから、幼稚園からやり直してるんじゃない?」
「・・・」
「東大を出ても、何をすればいいのかわからなくて、
とりあえず、教師になった誰かさんみたいにならないように。
そうだ。水泳部の顧問が空席なの。あなたやって。」
「嫌です!私、もうこんな学校辞める!」
「どうぞ。誰も止めないわよー。」
母を睨み、そして立ち去る若葉。
この二人は母娘だったんですね。
苗字が違うのは、長谷部が離婚をしたから。
若葉は父親と一緒に暮らしているようです。
北川さんのヘン顔は、『モップガール』を思い出します。
ついに、教室には洋貴と凛久、朔太郎だけが残った。
朔太郎の携帯にメールが入る。
「誰から?」洋貴は朔太郎から目をそらさずに携帯を凛久に渡す。
『負け犬へ
電話をよこせ』
末吉からだった
「・・・末吉君。電話しろって。」
「・・・」
「ねえ、洋貴は負け組みなんかじゃないよ。」
「補欠で入学したし。」
「でも受かったじゃん。」
「毎年留年しかけてる。
大体この学校に入れたのは、死んだおふくろの保険があったからだ。
みんなとは違う。」
「だから洋貴はいつも頑張って、」
「そうやって、励ましてる時点でお前は勝ち組みなんだよ。」
「え・・」
「なんかさ、頑張れって言われると、惨めになるんだよ。
俺もなりたかったよ。頑張れって言う側に。」
「だからってわざと負ける気!?最後なのに!?
この一年今日の対抗戦の為に練習してきたのに!?」
「・・・負けたって別に減るもんじゃないし。」
朔太郎が歩み寄る。
「何だよ。」
「お前将来何になりたい?」
「別に。そんなこと想像したって無駄だし。」
「何でそう思う。」
「叶わないからだよ。
子供の頃の夢が叶ったやつなんて、100人か1000人に一人だろ。
俺はその一人じゃない。
違うか?
頑張れば絶対にその一人になれんのか?」
「・・違わない。
夢は叶わないこともある。」
「ほらな。それが本音だろ?」
「人生には、努力が無駄になることもあるし、
恋が実らないこともある。
悪が、正義に勝つことだってある。
だけどな、」
その時、洋貴の携帯が着信する。
洋貴は微笑を浮かべると、朔太郎から視線を外し、携帯をチェックする。
「ごめん。すぐ掛け直すわ。」
「・・・はい負けた!」と朔太郎。
洋貴はお手の写真を朔太郎に見せる。
「そうだよ。これが俺なんだよ。
だから何だよ。」
「・・・」
洋貴は出ていってしまう。
凛久も洋貴を追いかけ・・。
廊下を文句言いながら歩く若葉。
「なによ!少しぐらい止めたっていいじゃない!」
自分の上履きを捨てようとしたその時、若葉は川辺英二のことを思い出す。
彼も、
「どうせ誰も止めないし。」と言っていた。
若葉は彼の上履きをゴミ箱から拾い上げ・・。
そこへ、与田先生(今井ゆうぞう)が水泳部メンバーと共にやって来た。
「あ!若葉先生!水泳部の顧問、担当してくださるってお話で!」
「いえ、私は・・」
「よろしく!!」満面の笑みで若葉の肩を叩き、立ち去る与田。
「うわ・・体育の先生って嫌い。」
「あの、対抗戦のメンバー表なんですけど。」と茂市。
「うん。」
「あ、いた。あいつが、うちのエースで。」
茂市が、携帯で誰かと話す洋貴を指差す。
「わかってるって。
わざと負ければいいんだろ?
うん。足でもつったふりするからさ。」
洋貴は茂市たちが自分を見ていることに気づく。
カフェテリア
「気にすることないよ、羽菜。」と灯里。
「あんなの奇麗事だよ。
人の命がどうとか考えて、医者になる人なんていないから。」と大和。
「別に気にしてない。」と羽菜。
「あーでも俺にらめっこだったら絶対勝つ自信あったなー。」と八朗。
「あれ?ハチはアレの味方なんだー。」と灯里。
「いやそんなことないよ。
もしあいつが今度そんなこと言ったら俺がバシっと、」
八朗の後ろに朔太郎がいた。
朔太郎が5人と同じテーブルにつく。
「むこうの席空いてますよ。」と凛久。
「え?ああ。行くか?」
「一人で行って下さいよ。」と凛久。
「いやだって一人で食べたって美味しくないじゃん。」
「あなたと食べたらこっちも、」
そこへ、茂市が洋貴に掴みかかりながらやってきた。
必死に二人を引き離そうとする水泳部メンバーと若葉。
「洋貴!!」凛久が、他の4人が駆け寄る。
テーブルに一人残った朔太郎は昼食を食べ続け・・。
「こいつ、今日の対抗戦わざと負ける気なんだよ!」と茂市。
「何言ってんの?洋貴がそんなことするはずないじゃん。」と灯里。
「え・・勘違いだよ。な、洋貴。」と大和。
「・・・」
「テメー、なんか言えよ!」茂市が洋貴を殴りつける。
生徒の食事の味見をする朔太郎。
「お前には・・対抗戦のメンバーから、外れてもらう。」と茂市。
「そうしてくれ。」
洋貴はそう言いその場を去る。
「裏切り者!!
あいつを、メンバーから外して下さい。」茂市が若葉に言う。
「ええ・・。」
「ダメだ!」と朔太郎。
「え?」
「ダメって何でダメなんですか!?」
「何ででも。」と朔太郎。
「ちょっとあなた顧問でもないくせになに勝手に!」
「予定通りアンカーは、彼に泳いでもらえ。」
そう言い朔太郎はカフェテリアを出ていく。
「洋貴をメンバーから外して下さい!
そうすればわざと負けなくて済むんです!
安心できるんです!」凛久は朔太郎に言う。
「安心?」
「ええ。」
「それは安心じゃない。諦めるっていうんだよ。」
朔太郎はそう言いその場を去る。
家に戻った洋貴は、工場の看板を見つめる。
『コーラルリーフテクノロジー』
「ただいま。」明るい声で従業員に挨拶する洋貴。
「おかえりなさい。」
そこへ父・正洋(松重豊)が、お盆を手にやって来た。
「何してんの親父。」
「末吉さんちの子がいらしててな。」
「は?」
工場の奥に、末吉とその友達が来ていた。
「おかえりー、根岸君!
君のお父さん気ー利かないねー。
普通高校生お茶飲まないでしょ!」
そう言い茶碗を投げ捨てる末吉たち。
「何でここにいるんだよ。」
「そっちこそ、対抗戦どうした。」
「バレてメンバーから外されたよ。」
「はぁ!?何なのそれ、困るんだよ!
こっちだってうちの水泳部に頼まれてんだから!
頭下げてもう一回入れてもらえよ。
頭の下げ方親父に教えてもらってさ。」
「・・・オマエな!!」末吉の掴みかかる洋貴。
すると末吉の仲間が取り囲む。
「あれー。
お父さん、オタクの息子暴力するんですけどー。
これって大問題じゃない?」
「よせ・・洋貴・・。」
父の言葉に洋貴は手を離す。
「ちゃんと負けてこい。
じゃなきゃまたお父さんに、土下座してもらうことになるかもよ。」
「・・・わかったよ。負ければいいんだろ。」
その様子を、朔太郎と凛久が見ていた。
洋貴に続き工場を出ていく朔太郎。
洋貴の姿をすぐ側の海岸に見つけると、微笑み、工場を見上げる。
「何が見える?
海か、空か、それとも、おまえ自身の将来か。」
「・・・あんたは何もわかってねーよ。
俺は別に勝ち組とかになりたいわけじゃねーんだ。」
「そっか。」
「昔から貧乏で、ずっと親父と二人きりだったし。
俺は、親父が船を作っている後姿を見て育った。
たいした儲けにならない船ばかり作ってたけど、
仕事に誇りを持っている親父のことを、カッコイイと思ってた。」
「そっか。」嬉しそうに微笑む朔太郎。
「だけどある時家に帰ったら、親父背広来た男と話してて。
事業の特徴だとか、技術の活用だとか言って、
何日かしたらうちの工場の名前変わってた。
親父の造船所は、与えられたノルマをこなすだけの下請けになった。
・・・貧乏でも楽しかったよ。
だけど無くなったのはさ・・・金じゃない。
カッコ良かった・・・世界一カッコ良かった親父の後姿だよ。
・・俺だって将来の夢ぐらいあったよ。
だけどさ、そんなの叶わないじゃん。
俺は多分このまま、」
「青い画用紙にさ、青いクレヨンで絵を描くとどうなる?」
「・・何も見えないに決まってるじゃん。」
「じゃあ絵は何も描いてないっていうのか?」
「・・・絵は描いてあるけど。」
「絵はあるんだよ。
例え見えなくたって、確かにそこに絵はあるの。
見えないだけ。見えなくてもそこにある。
その絵は、青春と呼ばれる絵だよ。」
「・・・」
「あがけ。
あがくことで見えてくるものがある。
たとえいつか敗れても、たとえ夢が叶わなくても、
あがけばあがいた分だけ、ここ(心)に残る。」
「・・・」
「ここ(心)に残せ。
全力で青春の絵を描け。
それはお前の人生で、一番の味方になるから。」
「・・・」
「最後なんだろ?
今日の為に頑張ってきたんだろ?」
「でも・・わざと負けないとあいつ、また親父に・・」
「俺に任せろよ。」
「任せろって・・」
「行けって。お前は何も考えずに、スタート台に立って
力いっぱい泳いで来い。」
「・・・」
朔太郎は迷う洋貴の背中を押し・・。
学校に行った洋貴を、大和ら4人が待っていた。
「洋貴対抗戦に出るの?」と灯里。
「出てどうするの?」と羽菜。
「わかんねー・・。」
「わかんねーって・・。」
そこへ、茂市たち水泳部が通りがかる。
「何で戻ってくんだよ。」
「あーあ、結局負けかよ!」
文句を言いながら素通りする。
洋貴は黙って水泳部員たちのあとを追い・・。
「どうする?」と八朗。
「塾があるし・・。」と羽菜。
「今日から受験に集中しようって。」と大和。
「じゃあ・・帰る?」と灯里。
末吉たちを睨みつける朔太郎。
「な、何ですか。僕は別に・・」と末吉。
「・・・頼む!」
「・・・」
「あいつを、自由に泳がせてやってくれないかな。
その代わり俺が使いっぱしりでも何でもやる。」
「え!?パシリってあんた、教師でしょう!?」
「言われたこと何でもやる。」
「じゃあやってもらおうかな!西高名物地獄のしごき三番勝負!」
「三番勝負?」
「その1!」
悪いコなくせに可愛いポーズだ!
神社へと続く長い長い階段を駆け上がる朔太郎。
「その2!」
海岸、末吉を乗せたゴムボートを引いて走る朔太郎。
「その3!」
大荷物を括りつけた自転車で、江ノ電と競争する朔太郎。
「二度と洋貴にちょっかい出さないで!」と凛久。
へとへとになった朔太郎とその場を去ろうとする。
「その4!」
「おいおいおい。三番勝負だって。」
「いやあんたじゃなくて、彼女。」
「え?」
「写真撮らせてくれないかな。」
「写真?」と凛久。
「君の下着姿の。」
「・・・」
「別に裸撮らせてくれって言ってるわけじゃないんだしさ。
撮らせてくれたら、もう二度と根岸とは関わらないから。」
「・・・」
「根岸のためじゃん。ね!」
「・・・わかった。」と凛久。
「帰ろう!」と朔太郎。
「え?」
「そろそろ戻らないと対抗戦始まっちゃうだろ。」
「ちょっと待てよ今僕は彼女と話しをしてるんだぞ!」
上着を放り投げ末吉に歩み寄る朔太郎。
「な、なんだよ!何でもするって約束したじゃないかよ!」
朔太郎は末吉を後ろ向きにさせ、ずり落ちたズボンを引っ張りあげる。
「パンツ見えちゃうぞー。だらしないなー。」
怯える末吉。
「行こう。」
朔太郎は凛久にそう言い歩き出す。
「ふざけるな!僕をバカにするな!
僕は根岸なんかよりずっと偉いんだぞ!
あんな工場一言言えば潰せるんだぞ!!」
「そんなことは、」
「証明してやるよ。
あいつの親父の土下座している写真撮って、
あいつに送りつけてやる!!
あいつ、ショック受けて溺れちゃうんじゃね?
あいつの負けだよ!!
行くぞ!!見てろよ!!」
末吉たちが立ち去る。
彼らを追いかけようとする凛久。
「待て待て待て。」朔太郎が止める。
「下着の写真くらい、なんてことないです!
そんなの撮られたって別に減るもんじゃないし。」
「そうかな。お前のしようとしていることは、」
「子どもの頃は大人からよく聞かれました。
大人になったら何になりたいって。
子どもなりに考えて答えてたけど、
でも本当はそんなの嘘だったんです。
だって、いざ大人の一歩前まできたら、そんなこと聞かれなくなるもん。
大人が聞くのは、どこの大学を受験するの?
大学に入ったら今度はどこの会社に入るの?
結婚はいつするの?子供はいつ産むの?
子どもはどこの学校に入るの?
・・・何になりたいかなんて聞くことないじゃない。
はじめから決まってるんだから。
・・・洋貴の夢は、お父さんの造船所を継ぐことだったの。
あんなことにならなかったら、洋貴は今でも自慢げに
言えてたはずなんです。
僕の夢は、お父さんの造船所を継ぐことですって。」
「・・・」
「私達の未来は、私達が決める前に決まってるんじゃない!」
凛久はそう言い、その場を走り去る。
朔太郎は自分の胸に手を置き、そしてシャツをぎゅっと握りしめると、
苦しそうに目を閉じ・・・。
彼が静かに目を開く。そして鋭い眼差しで歩き出し・・。
凛久の言葉が朔太郎の胸に突き刺さったのでしょう。
第23回湘南学館・湘南西高対抗戦
たくさんの生徒たちが声援を送る会場に、柴草と若葉たやって来た。
「人間が魚の真似をして何が面白いんだか。」と柴草。
「金槌なんですか?」と若葉。
「今なんか言った!?」
「いえ・・」
「だよね。」
そこへ、神谷理事長らがやって来た。
「どうなされましたか!
今年はやっぱり、中止ということになさいますか?」と柴草。
「理事長は観戦されます。」
「え!?」
「見ちゃまずいですか?」と神谷。
「人間は・魚を越えられます!どうぞ!」
会場に、八朗、灯里、大和、羽菜もやって来た。
「3年で来てんのうちらだけじゃない?」と灯里。
「今日だけ特別ね。」と羽菜。
「明日から頑張ろう。」と大和。
円陣を組む西高水泳部。
「行くぞ!」「おー!」
「行くぞ!」「おー!」
「行くぞ!」「おーーーー!」
同じく円陣を組む湘南学館。
「西高、絶対ぶっ倒す!」と茂市。
「今日で最後だからね。」
「湘学、」「・・・おー!!」
「バラッバラだこれ・・。」と八朗。
選手たちがお互い握手をしていく。
「おめーか。末吉のパシリっていうのは。」
「・・・」
「頑張れよ。負けんの。」
「・・・」
その頃、末吉たちは洋貴の実家にいた。
「ねえ、謝ってよ。」
「すみません。」
「そうじゃなくてさー、パパにしてたみたいにさ!」
末吉が携帯を正洋に向ける。
「やめなさいよ!」と凛久。
「・・・何か用?」
「私の写真、撮りたいんでしょ。」
「・・・うん!」
「その代わり、二度と洋貴には関わらないって、」
「うん!約束する。
じゃあ脱いで。今脱いで。」
「え・・」
「あれ!?できないのー!?」
「・・・できる。」
「脱げ!」
末吉と仲間たちが脱げとはやし立てる。
洋貴のためと、凛久が制服のボタンに手をかけたとき、
手にチェーンソーを持った朔太郎が乗り込んできた。
「先生!何持ってるんですか!?」
朔太郎は冷たい視線でチェーンソーのカバーを取り外す。
学校
水泳大会が開始される。
はりきって応援する八朗。
「ダメだよ応援しちゃ。」と灯里。
「え?」
「洋貴に回る前に、決着がついてるほうがいいんだよ。」と大和。
「あー、なるほど!
よーし!溺れろー!湘学ーーー!!溺れてーーーー!!」
西高がどんどん差をつけていく。
工場
朔太郎はエンジンをブンブン鳴らしながら末吉らに近づいていく。
恐怖で逃げ出す末吉の仲間たち。
動くこともできずに座り込み、「ごめんなさい!!」と謝る末吉。
朔太郎は、末吉の前に立ちはだかり、しばし睨みつけると、
無言で階段を昇っていく。
朔太郎は『コーラルリーフテクノロジー』と書かれた看板を切り始め・・。
切った看板を下に蹴落とす朔太郎。
すると、『(有)根岸造船所』の看板が姿を現す。
その看板に嬉しそうに微笑む朔太郎。
そして正洋も、凛久も、その看板を見つめ・・。
学校
茂市が西高との差を縮めていく。
仲間の必死に泳ぐ姿に、洋貴は・・。
工場
「これはうちの会社のものなんだぞ!
器物破損だ!!」と末吉。
「それがどうした。」と朔太郎。
「・・・」
「人の上に立つの楽しいか?
うん?気持ちいか?」
「僕は勝ち組なんだ!」
「金持ってりゃ勝ちか?なきゃ負けか?
違うよ。
人に勝つってのは勝つことじゃない。
自分に勝ったやつ、自分の目標に届いたやつが勝ったやつなんだ。」
朔太郎はそう言うと、末吉ではなく凛久たちに語りかける。
「減らないことなんてないぞ。
わざと負けたり、嫌なことすれば、心が減るんだ。
何やったって、絶対に譲っちゃいけないことがある。
絶対に守んなきゃいけないものがある。
それは、・・・誇りだよ。」
その言葉に凛久は黙り込み、正洋は看板を見つめる。
「自分自身に胸を張れるってことだよ。
金や地位じゃない。
人の目やルールじゃない。
上司でも教師でも誰でもない。
自分の胸に問いかけるんだ。
僕はこれでいいのか。
僕は正しいのか。
僕は今、胸を張って生きてるか。
この胸だけが、生きてくうえでの道しるべになるんだから。
・・・未来は、まだ何も決まってなんかいない。
お前たちはどこだって行ける。
お前たちの未来を決め付けるヤツがいたら、
そいつは、ぶっ飛ばしちゃえ。
お前たちの未来はまだ真っ白なままだ。
どこだって好きなところへ行ける。」
「こ、こんな工場、パパに頼んで潰してやる!!」
「潰せるものなら潰せ!!」そう叫んだのは、正洋だった。
「・・・帰れ。」
正洋の強気な態度に、末吉が逃げ出す。
「・・・勝手なことして、申し訳ありません。」
朔太郎が正洋に謝る。
「いえ。先生。」
正洋は朔太郎に深く頭を下げ・・
そして、新しい看板を踏みつけ、工場に戻っていく。
学校
スタート台に立つ洋貴。
工場
船に掛けられたブルーのカバーを外す正洋。
学校
「おい、洋貴!!凛久から!!」
八朗が洋貴に携帯を投げる。
その写真には、壊された新しい看板と、懐かしい看板の姿が映っていた。
「洋貴!頼む!!」
茂市がそう叫びながら泳いでいる。
迷いを無くした洋貴は、全力で遊泳。
そんな洋貴を嬉しそうに見つめる仲間たち。
そして・・・
「勝者、湘南学館!!」
湘南学館が勝利を納めた。
湧き上がる生徒たちの中、冷静な神谷。
「これも、リストに加えましょう。」神谷が真山に言う。
「はい。」
「リストって?」と柴草。
「受験の妨げとなるものは、排除する方向で動いています。」と真山。
「だよねー。人間は魚にはなれない。」と柴草。
神谷たちが会場を去る。
駆けつけた凛久は、洋貴が本気で泳いでくれたと知り
嬉しそうに微笑む。
プールから上がろうとする洋貴に、朔太郎が手を差し伸べる。
「残したか?」自分の胸を指して聞く朔太郎。
「・・・うっせーよ。」照れくさそうに答える洋貴。
洋貴の元に駆け寄る凛久の頭を鷲づかみにし、
朔太郎はその場を去る。
「洋貴!勝ったんだね!」
「おぅ!」
二人は朔太郎の背中を見つめ・・。
若葉は仲間たちを見つめていた英二に気付く。
「ねえ!戻ってきたんじゃないの?」
「別に。」
「これ。」英二が捨てた上履きを見せる若葉。
「なんでそれ・・。」
「どうすれば、学校辞めるのやめてくれるのかな。」
「は?何で俺にそんなこと言うわけ?」
「私ね、3年1組の担任じゃなかたの。
だから、私が担任だと思ってた時の生徒は、あなたしかいないの。
ね、戻ってきなさいよ。私はもう少しここに、残ることにしたから。」
「・・・考えてもいいよ。」
「本当?」
「その代わり、」
「その代わり?」
「・・・俺と結婚して。」
「え!?」
理事長室
「理事長。生徒たちは、あなたを信じています。
勉強さえすれば、受験勉強さえすれば未来は開かれるという
あなたの言葉を。」と長谷川校長。
「あなたの、最終学歴はどちらでしたかな。」
「日本女子大です。」
「私は、のぜ第三中学校です。
中卒です。
私がこの地位に来るまでに、中卒であるが故に
どれ程の苦労を背負ってきたか、あなたにはわからないでしょう。」
「・・・しかし、」
『内秘
私立湘南学館高等学校
2008年 学年別調査報告書』
を取り出す長谷部。
「このことが公になれば、現在3年生である生徒は全員、
卒業資格を失うかもしれません!
彼らが今必死に、その人生の全てを捧げて取り組んでいる
受験勉強が、何もかも無駄になるんですよ!
彼らの未来が、閉ざされてしまうことに!!」
「私は間違ってない!!」
「・・・」
「もっと子どもたちを、愛して下さい。」
「・・・」
渡り廊下で朔太郎と長谷部校長がすれ違う。
背を向けたまま語りだす長谷部。
「この学校の事情は、以前お話した通りです。」
「・・・はい。」
「私は、あなたの力にはなれそうもありません。」
「・・・はい。」
「あなた一人で、生徒たちを守って下さいますか?」
「・・そのために帰ってきました。」
二人は振り返り、お互いを見つめ・・
そして長谷部は足早にその場を去る。
丁度そこへ、校舎から神谷が出てきた。
車に乗り込む神谷に会釈をする朔太郎。
神谷はそれを無視し、車に乗り込む。
校長室
引き出しから書類を取り出す長谷部。
そこには、戦車の前で大きく手を広げる兵隊の写真。
それは、朔太郎だった。
夕方、海岸を歩く洋貴たち。
「今からじゃ塾間に合わないよ。」と凛久。
「あいつのせいだよ、あいつの。」
「あ!うちの学校の裏サイトあるじゃん。
あれの嫌いな先生ランキングで早速1位になったらしいよ。」と八朗。
「へー、私も投票してみようかなー。」と灯里。
「やめなよ!あの人洋貴のこと心配してくれてたよ。」と凛久。
「よけいなおせっかいなんだよ。」と洋貴。
「でも・・」
「なんだよ。凛久はあいつの味方かよ!」と茂吉。
「違うよ、違うけど・・」
「明日もいるのかなー。」と灯里。
「いるだろうねー。一応担任だし。」と大和。
「別にいいんじゃない?
私達はもう、高校生は卒業したんだから。
あの人は、私達の先生でも何でもないんだから。」と羽菜。
「・・そうか!洋貴たちも引退したし、今度こそ全員受験生か!」と凛久。
「そういうことです!じゃあ頑張りましょう!」と八朗。
「おーーっ!」
そこへ、サーファーの格好をした朔太郎が現れた。
手には茂市が捨てたボードを抱えている。
「よう!
一緒にどうだ?」朔太郎が7人に声をかける。
「ちゃんと捨ててこいよ、茂市・・。
てか何で勝手に拾ってくんだよ。
もう、行くぞ!」と洋貴。
「3年1組!
根岸洋貴!
白崎凛久!
田幡八朗!
屋嶋灯里!
楠木大和!
日垣茂市!
澤水羽菜!
俺と一緒に、最高の夏を送ってみないか?
高校生最後の、夏の思い出、作ってみないか!?」
「・・・」
朔太郎はサングラスを外し7人に微笑みかけ・・。